SES業界において、しばしばこんな声を耳にします。
「あの人、技術力あるし性格も悪くないのに、なんでずっと待機してるの?」
この疑問には、SESというビジネスモデル特有の”非論理性”が深く関わっています。本稿では、なぜ優秀なエンジニアが待機になってしまうのか、その背後にある構造的な理由と、そこから見えるSES営業・マッチングの本質を紐解いていきます。
1. 技術力とマッチング結果は相関しない
「技術力がある=現場に入れる」は、SESでは成り立ちません。理由は大きく3つあります。
① 顧客は“技術力”そのものを評価できない
SESでは、エンジニアが実際にコードを書く前に現場の判断が下されます。つまり、顧客はスキルシートでしか人を判断できないのです。
たとえGitHubやポートフォリオを提出しても、短時間の会話で本質的な実力を測るのはほぼ不可能です。結果、面談では「印象」や「コミュニケーションのわかりやすさ」が優先される傾向があります。
② 面談は“面接”ではなく“営業プレゼン”
多くのエンジニアが、面談を“面接”と誤解します。しかし、実際には営業活動の一環であり、サービス説明と同じです。
営業資料を用意せずプレゼンに臨めば失注するのと同じで、エンジニアも“伝え方”を間違えると案件から漏れます。
③ 技術の需要は“トレンド”に左右される
たとえば、Vue.jsに精通していても、現在の募集がReactに偏っていれば選ばれません。技術の流行と顧客の需要が噛み合わなければ、どんなに優秀でも出番が来ないのです。
2. マッチングにおける“非論理性”の正体
SESのマッチングは一見すると合理的な仕組みに見えますが、実は多くの主観と偶然に左右されています。
① 営業の“初動”がすべてを決める
最初に誰にどのように提案されたかによって、結果は大きく変わります。たとえば:
- 提案先の選定
- スキルシートの書き方
- 事前の顧客ヒアリング
ここを戦略的に動く営業と、ただ横流しする営業とでは、同じエンジニアでも受注率が何倍も変わります。
② 顧客の“その日の気分”で落ちることもある
顧客担当者がその日たまたま忙しかった、別の面談で疲れていた、あるいは趣味が合わなかった。そんな理由で落とされるケースもあります。ここにはロジックなど存在しません。
③ 顔出しNG・週5NG・出社NGなど、非技術要因で落ちる
実力とは関係のない条件(出社可否、話し方、年齢、外国籍など)によって不採用になることは日常茶飯事です。
3. 「優秀だけど待機」のパターン分類
A. 営業との連携が弱いタイプ
- スキルシートの更新に協力しない
- 営業の戦略に乗らない
- 面談対策に非協力的
→ 実力はあるのに、”伝わらない”状態になる。
B. 選り好みしすぎるタイプ
- リモート必須
- 稼働時間制限
- 特定技術以外やらない主義
→ 条件が狭すぎてマッチ先が限られる。
C. 面談が苦手なタイプ
- 緊張でうまく喋れない
- 質問に対して端的に返せない
- 会話のキャッチボールができない
→ 顧客の印象が悪くなり、落とされる。
4. 解決策:優秀な人ほど“ビジネスパーソン”になる必要がある
優秀なのに待機になる人に共通するのは、「自分の役割をエンジニアリングに限定してしまっている」点です。
SESにおいて現場に入るためには、“売れる”人材であることが求められます。
✔ 自分を売る視点を持つ
- スキルシートは「商品カタログ」
- 面談は「提案営業」
- 会話は「顧客理解」
✔ 営業とタッグを組む
- 提案戦略を相談する
- 顧客情報を共有してもらう
- 競合の情報を聞き出す
✔ 自分の“市場価値”を定点観測する
- どの技術が今、刺さるのか?
- 自分の強みは何か?
- 単価の相場感はどうか?
これらを把握して動ける人ほど、早期に案件に入れ、単価も高騰していきます。
5. 最後に:論理ではなく“戦略”がモノを言う世界
SES業界は非論理的に見えて、実は非常に“戦略的な世界”です。
優秀であることは大前提。でも、それが”伝わらなければ”評価されない。伝える努力と、売れる形にパッケージングする工夫を怠れば、実力者ほど埋もれる構造です。
「待機=実力がない」ではありません。
「待機=“見せ方”が最適化されていない」だけ。
この視点を持てるかどうかが、SESの世界でキャリアを積み上げられるかどうかの分岐点になります。