記事概要
SIerはオワコン?自社開発は激務?フリーランスは不安定?エンジニアの4大キャリア(SES・SIer・自社開発・フリーランス)の年収、メリット・デメリット、将来性を徹底比較。感情論抜きの生存戦略を解説します。
はじめに:なぜ、エンジニアのキャリア論は「ポジショントーク」ばかりなのか?
検索エンジンで「エンジニア キャリア おすすめ」と検索すると、無数の記事がヒットします。しかし、その多くは転職エージェントによる特定の企業への誘導や、プログラミングスクールの広告塔としての側面が強く、情報の非対称性が解消されていません。
これまで数百人のエンジニアと会話してきましたが、彼らの悩みは常に共通しています。
- 「SIerはオワコンなのか?」
- 「自社開発に行けば幸せになれるのか?」
- 「フリーランスは本当に自由なのか?」
結論から申し上げます。「万人に共通する正解」は存在しません。存在するのは「トレードオフ(何を得て、何を捨てるか)」だけです。
本記事では、感情論や偏見を一切排除し、SIer、自社開発、フリーランス、SESという4つの働き方を、ビジネスモデルと市場価値の観点から徹底的に解剖します。
第1章:4大キャリアのビジネスモデルと「お金」の出所
エンジニアとして働く以上、給与がどこから発生しているか(商流)を理解することは不可欠です。働きやすさや年収の上限は、個人の努力以上に「業界構造」で決まります。
1. SIer(システムインテグレーター)
- 顧客: 官公庁、金融機関、大企業
- 商品: 信頼と納期遵守、システムそのもの
- 収益モデル: 人月単価 × 期間 + 保守運用費
日本のIT業界のヒエラルキーの頂点に位置します(NTTデータや富士通など)。顧客は「絶対に止まらないシステム」を求め、その対価として巨額の予算を投じます。
2. 自社開発(Web系・SaaS)
- 顧客: 一般消費者(B2C)または企業(B2B SaaS)
- 商品: サービス利用料、広告収入
- 収益モデル: サブスクリプション、課金モデル
メルカリやスタートアップ企業が該当します。ビジネス(KPI)の成功が最優先されます。
3. フリーランス
- 顧客: クライアント企業(直接契約またはエージェント経由)
- 商品: 即戦力のスキルと時間
- 収益モデル: 契約単価(完全成果報酬または時間精算)
組織の保護を捨て、市場価値をダイレクトに現金化するスタイルです。高単価ですが、教育コストや税務リスクは全て自分持ちです。
4. SES(システムエンジニアリングサービス)
- 顧客: クライアント企業(SIerや自社開発企業)
- 商品: 技術力(準委任契約)
- 収益モデル: エンジニアの稼働単価
客先に常駐し、技術を提供します。かつては「多重下請け」の温床とされましたが、近年は「還元率連動型」など新しいモデルが登場し、急速にホワイト化が進んでいます。
第2章:SIerの真実
「SIerはオワコン」という検索クエリは頻繁に見られますが、それは間違いです。国家規模のシステムを支えているのは、今も昔もSIerです。
メリット:社会的信用と福利厚生の頂点
最大の魅力は「圧倒的な安定」です。住宅ローンの審査は容易に通り、退職金や企業年金も充実しています。また、数百億円規模のプロジェクトに関わる経験は、SIerでしか味わえないダイナミズムです。PM(プロジェクトマネージャー)としての管理能力は市場でも高く評価されます。
デメリット:Excel方眼紙とレガシー技術の呪縛
現場のリアルは泥臭いものです。「エビデンス」として大量のスクリーンショットをExcelに貼り付ける作業や、技術的な正解よりも顧客の顔色を伺う調整業務に忙殺されます。使用技術もCOBOLや古いJavaなど「れた技術が多く、モダンなWeb技術を触れる機会は限定的です。
第3章:自社開発の真実
多くのエンジニアが憧れる「自社開発」。モダンなオフィス、私服勤務、フレックス。しかし、その裏側には強烈なプレッシャーが存在します。
メリット:プロダクトへの愛と技術的裁量
「自分が作った機能」がユーザーに使われ、SNSで反応が返ってくる。この手触り感は代えがたい喜びです。また、GoやRust、AWSの最新機能など、技術選定の裁量が現場にあることが多く、技術好きにはたまらない環境と言えます。
デメリット:技術的負債とビジネスプレッシャー
「来週までにリリースしないと会社が潰れる」という状況下では、綺麗なコードよりも動くコードが優先されます。結果、裏側はスパゲッティコードの山となり、リファクタリングに追われます。また、エンジニアであっても「売上」への貢献が厳しく問われ、サービスがダウンすれば土日深夜問わず対応を迫られます。
第4章:フリーランスの真実
「年収1000万」という言葉に踊らされがちですが、フリーランスは「経営者」であることを忘れてはいけません。
メリット:圧倒的なキャッシュフローと選択権
給与からの天引きがないため、手取り額は会社員時代の1.5倍〜2倍になることも珍しくありません。また、嫌な現場であれば契約を更新しなければよいという*撤退の自由は、精神衛生上、非常に大きな武器になります。
デメリット:信用力ゼロと「スキルの切り売り」
社会的信用は著しく低下します。そして最大のリスクは、教育してくれる上司がいないことです。クライアントはできることにお金を払うため、新しい技術に挑戦する機会(投資フェーズ)は与えられません。自分で時間を捻出して学習し続けない限り、数年で過去の遺産を食いつぶすことになります。
第5章:SESの真実 ─ 「ガチャ」と言われた過去と、「キャリアハック」としての現在
ネット上で最も賛否が分かれるのがSESです。しかし、近年のSES業界は二極化が進んでおり、賢いエンジニアはSESを踏み台ではなく戦略的拠点として利用しています。
メリット:環境を選べる「流動性」と「技術専念」
SESの最大の特徴は、現場(プロジェクト)を変えられることです。SIerの堅牢な開発現場も、ベンチャーのモダンな現場も、一つの会社に所属しながら渡り歩くことができます。SIerのような社内政治や、自社開発のようなビジネス責任から解放され、純粋に「契約時間内で技術を提供する」ことに集中できるのも強みです。
デメリット:帰属意識の希薄さと商流の問題
「自分はどこの社員なのか?」という疎外感を感じやすいのは事実です。また、悪質なSES企業(いわゆる多重下請け)に入ってしまうと、希望しない現場に塩漬けにされるリスクがあります。会社選びがキャリアの全てを握ると言っても過言ではありません。
昨今のトレンド:「高還元SES」の台頭
従来、会社が中抜きしていたマージンを最小限に抑え、単価の7割〜8割をエンジニアに還元する「高還元SES」が増えています。これにより、正社員の安定性(雇用、社会保険)を持ちながら、フリーランスに近い年収を実現することが可能になりました。
第6章:徹底比較 ─ 年収・スキル・ワークライフバランス
ここでは、ユーザーが最も比較したい項目をマトリクスで整理します。
1. 年収の期待値(20代〜30代)
- フリーランス: ★★★★★(上限なし、実力次第)
- 高還元SES: ★★★★☆(単価連動型ならフリーランスに肉薄)
- 大手SIer: ★★★★☆(年功序列で確実に上がる)
- 自社開発: ★★★★☆(ストックオプション等で跳ねる可能性)
- 一般SES・中小SIer: ★★☆☆☆(構造的に上がりにくい)
2. スキル習得の幅と深さ
- SIer: 業務知識とマネジメントスキルが深まる。技術は浅くなりがち。
- 自社開発: 特定の言語・技術スタックが深く狭く刺さる。
- SES・フリーランス: 様々な環境を経験するため、技術の幅(フルスタック性)が広がる。
3. ワークライフバランス
- SIer: プロジェクトのフェーズによるが、法務遵守意識は高い。
- SES: 契約時間(140-180h等)が決まっているため、残業は抑制されやすい。
- 自社開発: サービス障害時はプライベートも犠牲になる覚悟が必要。
- フリーランス: 全て自己責任。稼ぐために休みなしで働く人も多い。
第7章:結論 ─ 2026年、あなたが選ぶべき「生存戦略」
ここまで4大キャリアを比較してきましたが、重要なのは「今のあなたのフェーズ」に合致しているかです。
フェーズ別のおすすめキャリアパス
- 🔰 新卒〜経験浅(0〜2年目):大手SIer または 教育体制のあるSES(レア)
- まずは「社会人の基礎」と「開発の作法」を身につけるべきです。いきなりフリーランスは自殺行為です。
- 🏃 中堅・スキルアップ期(3〜6年目):自社開発 または 優良SES
- モダンな技術に触れ、市場価値を高める時期です。一つの現場に固執せず、複数の技術スタックを経験できる環境が望ましいでしょう。
- 👑 ベテラン・収穫期(7年目以降):フリーランス または 高還元SES、大手SIer管理職
- 培ったスキルを換金するフェーズです。リスクを取ってフリーランスになるか、高還元SESで安定と高収入を両立させるか、SIerで組織の長になるか、人生観に合わせて選びましょう。
最後に
どのキャリアを選んでも、必ず不満は出ます。
「隣の芝生」は常に青く見えます。自社開発のエンジニアはSIerの定時退社を羨み、SIerのエンジニアは自社開発の技術的自由を羨みます。
重要なのは、世間の評判やネット記事(この記事も含めて!)を鵜呑みにせず、「自分が許容できるストレス」と「絶対に譲れない報酬」のバランスを自分自身で定義することです。
もしあなたが、
- 「技術力を正当に評価してほしい」
- 「会社に搾取されたくない」
- 「でもフリーランスのような孤独とリスクは怖い」
と感じているなら、業界の構造的な欠陥を解消しつつある「次世代型のSES(高還元SES)」や、技術志向の強いエージェントを探すのが、現代における最も賢い生存戦略かもしれません。
あなたのキャリアが、誰かの作ったレールの上ではなく、あなた自身の意思で選択されたものであることを願っています。

